フリーランス向けの下請法改正について

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本日、日経新聞にて、政府がフリーランスを下請法(下請代金支払遅延等防止法)の保護対象とするよう下請法改正の調整に入った、との報道がありました。

現在においても、フリーランスが下請法上の下請事業者に該当する場合には、受託者がフリーランスであっても下請法の適用があります。
他方で、委託者が下請法上の親事業者に該当するための資本金要件を充足しなければ、他の要件を充足していてもフリーランスは下請事業者に該当しませんから、この場合には、下請法の適用はないこととなります。
(なお、独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)の適用があり得ることには注意が必要です。)

そこで、今回調整が行われるとされる改正では、受託者がフリーランスの場合、委託者における資本金要件が撤廃されるとされています。
すなわち、委託者の資本金の額にかかわらず、委託者が親事業者となるための他の要件さえ充足していれば、フリーランスは下請事業者に該当し、フリーランスとの取引は、下請法の適用を受けることとなります。

したがって、法改正があった場合、委託者には、フリーランスとの取引において、下請法に基づき、いわゆる3条書面の交付義務や、代金支払遅延や代金減額、買いたたきの禁止等の11項目の禁止義務等が課せられることとなります。

また、フリーランスとの取引にのみ、そのような例外を設けることとなりますから、フリーランスの定義付けが法令上初めてなされると考えられます。
参考までに、2021年3月26日付で内閣官房等から出された「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」によれば、フリーランスの定義は、要旨、①実店舗がなく、②雇人のいない、③自営業主又は一人社長であって、④自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者、とされています。

この定義上、③からは、法人化(法人成り)した個人事業主フリーランスに含まれる可能性があることになります。
(③は、受託者が委託者との関係で労働者ではない、ということを裏側から表したものと考えられます。)
実態として、個人事業主個人事業主が法人成りした法人との間に実質的な違いはないと考えられますから、その点を反映したものと言い得るでしょう。
ただし、前記報道では「受託者が個人事業主の場合」に資本金要件が撤廃ということのようです。
とはいえ、改正内容がどのようなものとなるか、注視していく必要があると思われます。

ところで、委託者からすると、受託者が①や②を充足するか否かは、そもそも受託者に確認しなければわからない事項です。
改正後の下請法において、これらの内容がフリーランスの定義として要件化された場合には、取引前に①や②を充足するか否かの確認を行い、その旨を書面化することが必要になるのではないかと考えられます。

システム開発においても、プログラマ、デザイナー等、前述のフリーランスの定義に該当する受託者に業務委託をすることはまったく珍しくありません。
現在は資本金要件のために親事業者になることはないシステム開発事業者であっても、法改正により、親事業者として下請法を遵守しなければならない事業者が増加することが想定されます。
下請法違反に対しては、厳しい制裁条項も定められていますから(例えば、代金支払を遅延した場合の遅延損害金の利率は、民法上の法定利率よりも高い14.6%です。)、現時点で改正が確定したわけではないものの、改正に向けてしっかりと準備、対応すべきと思われます。