松田世理奈外3名著『契約解消の法律実務』

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阿部・井窪・片山法律事務所の弁護士が書いた契約解消の場面に関する書籍ということで、内容に関する情報を把握しないまま「おもしろそう」と思って買ったような記憶です。
前記リンク先の出版社公式通販サイトにも目次等の情報がないのですが、売買契約や継続的契約等のほか、システム開発契約、AI開発契約といった、IT分野における契約に関する記載もそれぞれありましたので、ここでご紹介しようかと思います。

内容としましては、全2章に分けられており、第1章では契約終了に関する総論的な内容が、第2章では各契約に応じたケーススタディ的な内容が、それぞれ記載されています。

第1章

第1章においては、まず、契約終了には①解除、②期間満了、③合意による終了、④一時的な停止の4つのパターンがあるとした上で、それぞれのパターンに関する説明が行われています。
また、これらの契約終了の根拠として、①契約、②法律、③その他の終了原因、④合意の4つが挙げられるとした上で、それぞれの根拠の具体的な内容について、その説明が行われています。
(個人的に、③の「その他の終了原因」は、見出しとしてわかりにくいなと思いましたが、内容を読むと、②は民法541条ないし543条に基づく解除のみを指し、③はそれ以外の民法641条に基づく解除等を指すということのようです。)
その上で、契約終了の効果について、①遡及効、②将来効、③その他を挙げ、例えばどのような場合に遡及効が生じるのか、遡及効が生じるとどうなるのか、といった説明が行われています。

ここまでは比較的理論的な話がメインでしたが、その後、実務的な話へと内容が移っていきます。
例えば、契約終了を実際に検討する場合においては、「何のために契約を終了したいのか(達成目標はなにか)」、「その根拠として考えられるものはあるか」、「その根拠に基づいて実際に解除できるといえるか(=要件を充たすか、立証可能性はあるか)」、といった視点からの検討が有用と述べられています。
また、訴訟提起を視野に入れる場合には、①相手との関係性、②訴訟コスト、③レピュテーションリスクといった点も考慮要素となる、とも述べられています。
(その他、ここでは紹介しませんが、契約解除通知書等の作成のポイント等に関する説明がなされています。)

このように、理論面のみではなく、実務的な検討プロセス、考慮要素等が記載されているため、有資格者かどうかを問わず、契約終了について検討する場合には、本書の記載が大きな助けになるのではないでしょうか。

第2章

続く第2章は各契約類型におけるケーススタディですが、そのうちシステム開発契約に関する部分のみ、ご紹介したいと思います。

システム開発契約におけるモデルケースは、平たく言えば、「要件定義フェーズ終了直前に要件定義書から必要な機能が漏れていると判明したため、ベンダーが当該機能の開発は追加開発となる旨を説明したところ、ユーザーが報酬支払を止めつつ開発中止を求めたため、PJが頓挫しそうな状態にある」といったケースです。
(「あるある……」と思いました。実際、このようなケースのご相談は、ユーザーかベンダーかを問わず非常に多いです。)

このケースを検討する上で、システム開発に関する契約の前提知識として、①システム開発契約の法的性質(請負、準委任や一括契約、多段階契約)、②ベンダーの数による違い(シングルベンダー、マルチベンダー等)、③開発方式(ウォーターフォール開発におけるVモデルの説明がほとんどです)、④開発手法(スクラッチ、パッケージ)といった事項が簡単に説明されるほか、⑤IBMvsスルガ銀行の東京高裁判決の概要、判決のポイント(PM義務、協力義務)について説明がなされています。
書籍のコンセプト上の都合だと思われますが、システム開発契約やIBMvsスルガ銀行東京高裁判決については、他に詳しく触れている書籍が複数ありますので、あくまでモデルケースについて理解するための最低限の知識を得るため、と割り切って読んだほうがよいと感じました。
(その意味では、非常にコンパクトにまとまっているのではないかと思います。)

そして、モデルケースを踏まえ、①具体的にどのような点を検討すべきか(契約に基づき解除ができるか、法律に基づく解除ができるか等)、②具体的にどう解決に向かって動いていけばよいか(交渉の主体を誰にするか等)、③トラブルを避けるために契約書作成時はどうすればよかったのか、という点について、それぞれ解説がなされています。
特にベンダーとしては、システム開発事業を行う以上、後に同様のトラブルが生じないように対策を行うことが重要ですので、契約書作成時に注意すべきポイントについて触れられているのは非常によい点だと思われます。

実際問題として、十分にノウハウがあるような場合を除けば、社内でこれら3つの点を十分に検討するということは難しいと思います(そのため、顧問弁護士等の外部弁護士に相談する、ということが重要です。)。
もっとも、システム開発だけ見ても、モデルケースのようなケースはよくありますし、そのような場面で何を検討しなければならないのか、という点だけでも把握しておくことには大きな意味があると思いますので、本書をご紹介することとした次第です。