「アンドエンジニア」にてインタビュー記事が公開されました

前回の更新が3月でしたので、すっかり更新がご無沙汰となってしまいました。

さて、私が先日インタビューを受けた際の記事が、株式会社マイナビが運営しているエンジニア向けのWebメディア「アンドエンジニア」にて、本日から公開されております。 and-engineer.com

肝心の内容はと言いますと、エンジニアの方向けに、ざっくりとではありますが、システム開発に関する紛争や契約まわりの話をしています。
よろしければ、お手すきの際にご覧いただけますと幸いです。

ソフトウェア開発委託契約と権利非侵害保証

ソフトウェア開発委託契約において、ユーザーや委託元ベンダー等から、例えば次のような内容の条項が含まれた契約書が送付されることが多々見受けられます。

乙(=ベンダー)は、甲(=ユーザー、委託元ベンダー等)に対し、本契約に基づき乙が開発した本件ソフトウェアが第三者著作権特許権その他の知的財産権を侵害していないことを保証する。

ベンダーの方、このような条項があった際に気にされていますか?
まったく気にしないまま契約を締結してしまっている場合も少なくないのではないでしょうか?

しかし、ソフトウェア開発においては、多くの場合、開発したソフトウェアが著作権をはじめとした知的財産権を侵害していないことをすべて保証することは難しいはずです(※特に特許権については、調査コストの面で保証が難しい等の話も別途あり得ますが、ここで取り扱うのはまた別の話となります。)。

ソフトウェア開発において、第三者が作成したライブラリやアセットを利用することも一般的かと思います。
そして、いわゆるGPL汚染のリスクもありますから、そのライブラリやアセットのライセンス条項は確認しているのではないでしょうか。
では、一般的には利用しても問題ないとされるOSSライセンスのうち、MITライセンスの条件を見てみましょう。

(原文:https://opensource.org/license/mit/)

Copyright <"YEAR"> <"COPYRIGHT HOLDER">
 
Permission is hereby granted, free of charge, to any person obtaining a copy of this software and associated documentation files (the “Software”), to deal in the Software without restriction, including without limitation the rights to use, copy, modify, merge, publish, distribute, sublicense, and/or sell copies of the Software, and to permit persons to whom the Software is furnished to do so, subject to the following conditions:
 
The above copyright notice and this permission notice shall be included in all copies or substantial portions of the Software.
 
THE SOFTWARE IS PROVIDED “AS IS”, WITHOUT WARRANTY OF ANY KIND, EXPRESS OR IMPLIED, INCLUDING BUT NOT LIMITED TO THE WARRANTIES OF MERCHANTABILITY, FITNESS FOR A PARTICULAR PURPOSE AND NONINFRINGEMENT. IN NO EVENT SHALL THE AUTHORS OR COPYRIGHT HOLDERS BE LIABLE FOR ANY CLAIM, DAMAGES OR OTHER LIABILITY, WHETHER IN AN ACTION OF CONTRACT, TORT OR OTHERWISE, ARISING FROM, OUT OF OR IN CONNECTION WITH THE SOFTWARE OR THE USE OR OTHER DEALINGS IN THE SOFTWARE.

(和訳:https://licenses.opensource.jp/MIT/MIT.html)

Copyright (c) <"year"> <"copyright holders">
 
以下に定める条件に従い、本ソフトウェアおよび関連文書のファイル(以下「ソフトウェア」)の複製を取得するすべての人に対し、ソフトウェアを無制限に扱うことを無償で許可します。これには、ソフトウェアの複製を使用、複写、変更、結合、掲載、頒布、サブライセンス、および/または販売する権利、およびソフトウェアを提供する相手に同じことを許可する権利も無制限に含まれます。
 
上記の著作権表示および本許諾表示を、ソフトウェアのすべての複製または重要な部分に記載するものとします。
 
ソフトウェアは「現状のまま」で、明示であるか暗黙であるかを問わず、何らの保証もなく提供されます。ここでいう保証とは、商品性、特定の目的への適合性、および権利非侵害についての保証も含みますが、それに限定されるものではありません。 作者または著作権者は、契約行為、不法行為、またはそれ以外であろうと、ソフトウェアに起因または関連し、あるいはソフトウェアの使用またはその他の扱いによって生じる一切の請求、損害、その他の義務について何らの責任も負わないものとします。

以上のライセンス条件にも明記されているように、MITライセンスには権利非侵害の保証がありません。
MITライセンスのライブラリ等を利用する場合には、このライセンス条件に同意した上で利用することとなりますから、権利非侵害の保証がないことにも同意しなければなりません。
となると、そのようなライブラリを用いたソフトウェアを開発する場合、ベンダーは、ユーザー等に対して、少なくとも、成果物の「ソフトウェアのすべて」に関して権利非侵害の保証をすることは難しいはずです。

他方で、ユーザー等としては権利侵害があった場合にソフトウェアが利用できなくなる等の不利益を被るおそれがありますから、権利非侵害の保証を最大限してもらいたいと考えることは無理もない話だと思います。
ソフトウェアすべてに関しての権利非侵害の保証が難しいことは、ソフトウェア開発委託契約内で権利非侵害の保証に関する条項を置くことは一切あり得ない、ということにはなりません。
ですので、ここから、双方が落としどころを探り、合意に至る契約条項を模索していくこととなります。
この点についての1つの回答が、IPAモデル契約書のOSS等に関する条項になりますが、またその詳細は後日ご紹介できればと思います。

さて、以上から、契約書の1つ1つの条項が大きな意味を有することがなんとなくお分かりいただけましたでしょうか。
後々のトラブルを防止するため、あるいは、ソフトウェア開発において法的拘束力を有する手順書として、契約書は重要なドキュメントです。
契約書を作成していなかったり、契約書があってもその内容が適切でなかったりした場合には、開発中や開発後に、思わぬトラブルや不利益が生じるおそれがあります。
できる限りそのようなリスクを低減するためにも、適切な契約書を作成していただければと思う次第です。

it-vendor-law.com

TwitterAPIの無償提供終了

www.itmedia.co.jp

TwitterAPIv1.1、v2のいずれも無償提供が終了となるようです。
3rd-Partyクライアントを使用停止にしただけではなく、日が経たないうちにAPIの無償提供も終了することになるとは……素直に驚いています。それほどまでに収益に問題があるということなのだとは思いますが……。

さて、システムやサービスにおいて、例えば、TwitterAPIを利用して投稿機能を実装していたり、TwitterAPIを利用して任意のワードを検索したり等、TwitterAPIを利用しているケースは少なくないと思われ、事業者側、ユーザー側のいずれにおいても、大きな影響が生じるのではないかと考えられます。
有償でTwitterAPIを利用するか、TwitterAPIの利用をやめるか、いずれかの対応が必要となるのでしょうが、有償利用の場合に負担しなければならなくなるコスト等によっては、難しい判断を迫られる可能性もあります。

現時点では、今後のTwitterからの発表を待つほかないと思われますが、営利目的かどうかを問わず、開発者にとっては厳しいニュースが飛び込んできたというのが率直な感想でした。

※2023/02/02追記
Twitterアカウントと連携させたログイン機能自体には影響がないという旨の情報も流れてきたため、実際にどうなるのかは別として、その旨の記載を本文中から削除しました。

システムに関する契約法務のご案内

システム開発契約においては、案件等に応じて、様々な契約方式が存在します。
例えば、基本契約を締結した後で各開発フェーズに応じた個別契約を締結するという、基本/個別契約方式は、システム開発の契約において多く見られる契約方式です。
他方、基本契約は締結しないものの、各開発フェーズごとに、例えば、まずは要件定義フェーズのみ契約する等、スポットで契約を締結する場合もしばしば見受けられるところです。

特にここ最近、顧問契約を締結いただいているクライアント様から、要件定義フェーズ等の上流工程の支援業務に関する契約書雛形のご提供や、案件に応じた雛形の加筆修正等をよくご依頼いただいております。
私は、システム開発分野ばかり取り扱っている弁護士ということもあり、そのような上流工程における契約書雛形も保有しておりますので、速やかな契約書雛形のご提供や、案件に応じた契約書作成等も可能となっております。
もちろん、要件定義支援業務特有の事項を反映した契約書雛形となっておりますので、要件定義支援業務の委託契約書のご提供は、スピード感も含め、顧問先クライアント様からもご好評いただいております。

 

it-vendor-law.com

私は、このブログでも繰り返し述べるところではございますが、システム開発等を中心に取り扱っている弁護士でして、特に顧問契約を締結いただいているクライアントからのご依頼で、システムに関する契約書の作成やチェックも日常的に行っております。
契約書がなかったり、インターネット上でダウンロードできる契約書雛形がそのまま流用できない場面でも流用してしまったりした結果、トラブルに発展してしまったり、トラブルが発生した際に不利益を被る結果となってしまったりすることが少なくありません。
システム開発等はトラブルの多い分野でもありますので、他の分野以上に、契約書の作成やチェックを行う必要があると考えております。

ご興味のある方は、ぜひお気軽に、上記のWebサイトからお問い合わせください。

「法律専門家のためのWebAssembly」

www.publickey1.jp

www.linuxfoundation.jp

RSSフィードを購読していたPublickeyから、Linux Foundationが法律専門家向けにWebAssemblyに関するドキュメントを公開した、という情報を受けて(しかも日本語版がある!)、朝からこれを読んでおりました。
Linux Foundation JPのTwitterを見ると、どうやらもっと前にドキュメントとしては公開されていたようですね。

読んでいたところ、それなりに知識のある方でないとほぼ理解できないのでは、というのが率直な感想でして、ここでいう「法律専門家」の層は一体どこなのか……?、と素朴に思ってしまいました。
ですので、法律専門家向けというよりは、エンジニア向けに、WebAssemblyを題材に、「OSSライセンスを利用する際はどのようにしてライセンス条項を遵守していけばよいか」という点について理解を深めさせるようなドキュメントと位置づけたほうが、多くの場合では適切ではないかとも思われます。
他方で、社内の法務部門でOSSの利用可否や利用方法等について確認をしている場合においては、法務部門が理解しておくべき点が記載されているとは思いました。

梧桐彰著『小さな企業がすぐにできるセキュリティ入門』

gihyo.jp

発売されるとの情報を某SNSで得て、発売直後あたりに買っていましたが、やっと目を通すことができました。

ITや情報セキュリティに関する知識の(あまり)ない方が初めて読む情報セキュリティに関する書籍として、おすすめできるのではないかと思います。

全体的に平易な文章で書かれていますし、読み進める上で登場する語句についてもできるだけわかりやすく表記された解説が加えられています。
ポジショントーク色が強いと感じる部分もありましたが、想定される読者層を考えるとそれはそれでありだとも思いました。
「小さな企業がすぐにできるセキュリティ」という、タイトルのとおりの書籍ではないでしょうか。

ただ1点、私なりのポジショントークの側面も含んでいるのですが、「法律関係の問題になりそうな場合には法テラスに相談を」という旨の記載がありまして……。
色々言いたいことはありますが、一番重要な点だけ述べておくと、(あくまで個人的な認識ではありますが)弁護士でも少なくない方が本書が対象とする読者層に該当するかと思いますので、万一そのような問題が生じた場合には、情報セキュリティに関する知識のある弁護士を探すべきだと思います。

松田世理奈外3名著『契約解消の法律実務』

www.biz-book.jp

阿部・井窪・片山法律事務所の弁護士が書いた契約解消の場面に関する書籍ということで、内容に関する情報を把握しないまま「おもしろそう」と思って買ったような記憶です。
前記リンク先の出版社公式通販サイトにも目次等の情報がないのですが、売買契約や継続的契約等のほか、システム開発契約、AI開発契約といった、IT分野における契約に関する記載もそれぞれありましたので、ここでご紹介しようかと思います。

内容としましては、全2章に分けられており、第1章では契約終了に関する総論的な内容が、第2章では各契約に応じたケーススタディ的な内容が、それぞれ記載されています。

第1章

第1章においては、まず、契約終了には①解除、②期間満了、③合意による終了、④一時的な停止の4つのパターンがあるとした上で、それぞれのパターンに関する説明が行われています。
また、これらの契約終了の根拠として、①契約、②法律、③その他の終了原因、④合意の4つが挙げられるとした上で、それぞれの根拠の具体的な内容について、その説明が行われています。
(個人的に、③の「その他の終了原因」は、見出しとしてわかりにくいなと思いましたが、内容を読むと、②は民法541条ないし543条に基づく解除のみを指し、③はそれ以外の民法641条に基づく解除等を指すということのようです。)
その上で、契約終了の効果について、①遡及効、②将来効、③その他を挙げ、例えばどのような場合に遡及効が生じるのか、遡及効が生じるとどうなるのか、といった説明が行われています。

ここまでは比較的理論的な話がメインでしたが、その後、実務的な話へと内容が移っていきます。
例えば、契約終了を実際に検討する場合においては、「何のために契約を終了したいのか(達成目標はなにか)」、「その根拠として考えられるものはあるか」、「その根拠に基づいて実際に解除できるといえるか(=要件を充たすか、立証可能性はあるか)」、といった視点からの検討が有用と述べられています。
また、訴訟提起を視野に入れる場合には、①相手との関係性、②訴訟コスト、③レピュテーションリスクといった点も考慮要素となる、とも述べられています。
(その他、ここでは紹介しませんが、契約解除通知書等の作成のポイント等に関する説明がなされています。)

このように、理論面のみではなく、実務的な検討プロセス、考慮要素等が記載されているため、有資格者かどうかを問わず、契約終了について検討する場合には、本書の記載が大きな助けになるのではないでしょうか。

第2章

続く第2章は各契約類型におけるケーススタディですが、そのうちシステム開発契約に関する部分のみ、ご紹介したいと思います。

システム開発契約におけるモデルケースは、平たく言えば、「要件定義フェーズ終了直前に要件定義書から必要な機能が漏れていると判明したため、ベンダーが当該機能の開発は追加開発となる旨を説明したところ、ユーザーが報酬支払を止めつつ開発中止を求めたため、PJが頓挫しそうな状態にある」といったケースです。
(「あるある……」と思いました。実際、このようなケースのご相談は、ユーザーかベンダーかを問わず非常に多いです。)

このケースを検討する上で、システム開発に関する契約の前提知識として、①システム開発契約の法的性質(請負、準委任や一括契約、多段階契約)、②ベンダーの数による違い(シングルベンダー、マルチベンダー等)、③開発方式(ウォーターフォール開発におけるVモデルの説明がほとんどです)、④開発手法(スクラッチ、パッケージ)といった事項が簡単に説明されるほか、⑤IBMvsスルガ銀行の東京高裁判決の概要、判決のポイント(PM義務、協力義務)について説明がなされています。
書籍のコンセプト上の都合だと思われますが、システム開発契約やIBMvsスルガ銀行東京高裁判決については、他に詳しく触れている書籍が複数ありますので、あくまでモデルケースについて理解するための最低限の知識を得るため、と割り切って読んだほうがよいと感じました。
(その意味では、非常にコンパクトにまとまっているのではないかと思います。)

そして、モデルケースを踏まえ、①具体的にどのような点を検討すべきか(契約に基づき解除ができるか、法律に基づく解除ができるか等)、②具体的にどう解決に向かって動いていけばよいか(交渉の主体を誰にするか等)、③トラブルを避けるために契約書作成時はどうすればよかったのか、という点について、それぞれ解説がなされています。
特にベンダーとしては、システム開発事業を行う以上、後に同様のトラブルが生じないように対策を行うことが重要ですので、契約書作成時に注意すべきポイントについて触れられているのは非常によい点だと思われます。

実際問題として、十分にノウハウがあるような場合を除けば、社内でこれら3つの点を十分に検討するということは難しいと思います(そのため、顧問弁護士等の外部弁護士に相談する、ということが重要です。)。
もっとも、システム開発だけ見ても、モデルケースのようなケースはよくありますし、そのような場面で何を検討しなければならないのか、という点だけでも把握しておくことには大きな意味があると思いますので、本書をご紹介することとした次第です。