続・フリーランス向けの下請法改正(?)について

it-lawyer.hatenablog.com

先日、日経新聞の報道を受けて、前記エントリを書いたわけですが、2022年9月13日、パブコメの募集が開始されています。
(9月27日までパブコメの受付がされています。)

「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」に関する意見募集について|e-Govパブリック・コメント

さて、「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」(以下「方向性」)を見るに、フリーランスの定義が「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」でなされた定義と異なるのかどうかははっきりしません。

また、「方向性」には、「フリーランスの取引を適正化し、個人がフリーランスとして安定的に働くことのできる環境を整備する」「他人を使用する事業者……が、フリーランス……に業務を委託する際の順守事項等を定める」とあります。
これらの記載から、今回整備される法制度は、事業者間において下請関係がない場合にも適用されることが前提とされているように見受けられます。

そのほか、「方向性」には、「ハラスメント対策」や「出産・育児・介護との両立への配慮」も、就業環境の整備として事業者が取り組むべき事項として記載されています。
これらは、個人事業主(法人成りも含む?)であって、本来労働法により保護を受ける立場にないフリーランスを、労働者と同様に保護しようとするものです。
この点は、不公正な取引方法を制限することを想定した下請法との関係で、あまり馴染まない内容ではないかと思われるところです。
(現行の下請法でもフリーランスは下請事業者に該当し得ますが、その場合に親事業者が就業環境を整備しなければならないとはしていません。)

以上から、今回のフリーランスに関する法整備においては、下請法を改正するのではなく、下請法とは別にフリーランスに関する法律を設けるのではないかと想定されます。

フリーランス向けの下請法改正について

www.nikkei.com

本日、日経新聞にて、政府がフリーランスを下請法(下請代金支払遅延等防止法)の保護対象とするよう下請法改正の調整に入った、との報道がありました。

現在においても、フリーランスが下請法上の下請事業者に該当する場合には、受託者がフリーランスであっても下請法の適用があります。
他方で、委託者が下請法上の親事業者に該当するための資本金要件を充足しなければ、他の要件を充足していてもフリーランスは下請事業者に該当しませんから、この場合には、下請法の適用はないこととなります。
(なお、独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)の適用があり得ることには注意が必要です。)

そこで、今回調整が行われるとされる改正では、受託者がフリーランスの場合、委託者における資本金要件が撤廃されるとされています。
すなわち、委託者の資本金の額にかかわらず、委託者が親事業者となるための他の要件さえ充足していれば、フリーランスは下請事業者に該当し、フリーランスとの取引は、下請法の適用を受けることとなります。

したがって、法改正があった場合、委託者には、フリーランスとの取引において、下請法に基づき、いわゆる3条書面の交付義務や、代金支払遅延や代金減額、買いたたきの禁止等の11項目の禁止義務等が課せられることとなります。

また、フリーランスとの取引にのみ、そのような例外を設けることとなりますから、フリーランスの定義付けが法令上初めてなされると考えられます。
参考までに、2021年3月26日付で内閣官房等から出された「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」によれば、フリーランスの定義は、要旨、①実店舗がなく、②雇人のいない、③自営業主又は一人社長であって、④自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者、とされています。

この定義上、③からは、法人化(法人成り)した個人事業主フリーランスに含まれる可能性があることになります。
(③は、受託者が委託者との関係で労働者ではない、ということを裏側から表したものと考えられます。)
実態として、個人事業主個人事業主が法人成りした法人との間に実質的な違いはないと考えられますから、その点を反映したものと言い得るでしょう。
ただし、前記報道では「受託者が個人事業主の場合」に資本金要件が撤廃ということのようです。
とはいえ、改正内容がどのようなものとなるか、注視していく必要があると思われます。

ところで、委託者からすると、受託者が①や②を充足するか否かは、そもそも受託者に確認しなければわからない事項です。
改正後の下請法において、これらの内容がフリーランスの定義として要件化された場合には、取引前に①や②を充足するか否かの確認を行い、その旨を書面化することが必要になるのではないかと考えられます。

システム開発においても、プログラマ、デザイナー等、前述のフリーランスの定義に該当する受託者に業務委託をすることはまったく珍しくありません。
現在は資本金要件のために親事業者になることはないシステム開発事業者であっても、法改正により、親事業者として下請法を遵守しなければならない事業者が増加することが想定されます。
下請法違反に対しては、厳しい制裁条項も定められていますから(例えば、代金支払を遅延した場合の遅延損害金の利率は、民法上の法定利率よりも高い14.6%です。)、現時点で改正が確定したわけではないものの、改正に向けてしっかりと準備、対応すべきと思われます。

独立開業しておりました

1年以上ぶりと、だいぶご無沙汰の更新となってしまいました。

実は、2022年1月1日付で、以前所属しておりました事務所から独立しておりました。
現在は千代田区神田紺屋町にて、「野溝法律事務所」という私個人の事務所を開業し、弁護士業を行っております。
バタバタと手続やら業務やらに追われていたところ、あっという間に独立してから満8か月が経過してしまっていることに気づき、ただただ驚くばかりです。

ありがたいことに、独立してからもシステム開発を手がけているITベンダー様との顧問契約が増えておりまして、特にここ最近でホットなアジャイル開発の契約やラボ開発の契約、SES契約(システムエンジニアリング契約)等について、最新の情報等もお伝えしつつ、裏方として開発のお手伝いをさせていただいております。

そのようなこともあってか、現在も取扱業務はほとんど変わらず、①システム開発分野の契約書チェック、作成や紛争処理、②個人情報の取扱いの適法性を含めたリスクチェック(最近で言うと改正法対応が多い印象です)、③OSSをはじめとしたライセンスチェック、④Web上でサービスを提供している企業の利用規約、プライバシーポリシー、広告等の表示のチェック、といった業務がメインになっています。

そのほかですと、強いて言えば、広告代理店のクライアント様が複数社あり、広告基本契約や広告出演契約のチェック、作成等も日常的に行っているところです。

まだ今年も残っていますが、今年印象深かったご依頼のうちの1つをご紹介しますと、ゲーム開発会社様から、主にOSSと海外ソフトウェアのライセンスチェックのご依頼を、毎月20件ほど継続的にいただいておりました。
このお仕事は、同社様で利用されていた内部システムの取扱いも含め、私個人のソフトウェアの知識を非常に活かすことができたと感じられたお仕事でもありました。
GitHubを多少使い慣れていることもそうですが、ソフトウェアライセンスの探し方の勘所がなんとなくわかっていることも、まさに私向けの仕事だと感じるところでした。
(表向きにはライセンス条項がないか、実際のライセンス条項とは違うライセンス条項が置かれている場合に、実際のライセンスを見つけるようなこともしばしばありました。)

さて、現況はそんなところですが、やっと独立後の業務にも慣れてきて、余裕も出てきたところですので、頻繁に本ブログも更新していきたいと思っております。

システム開発に携わる企業様をはじめとする特にITに詳しい顧問弁護士をお探しの企業様、ご興味がございましたら、下記のURL先からお気軽にお問い合わせください。

it-vendor-law.com

AI契約書レビューツールを導入しました

AIを用いた契約書レビューツール「LegalForce」を導入しました。

ありがたいことに、今年に入ってからも、システム開発を手がけているITベンダー企業様との顧問契約が増えています。
また、出社をして法務部員、企業内弁護士(インハウスロイヤー、インハウスローヤー)のように稼働する外注法務部サービスについても、ご利用いただいている企業様が増えています。

顧問契約においても、外注法務部サービスにおいても、契約書等のドキュメントレビューの業務が多く、法律相談と並ぶメイン業務となっています。
なるべく速くレビューの結果をお返しすることは当然のことだと考えていますが、他方、速度が上がったことによって品質が下がってしまっては元も子もありません。
そこで、今回LegalForceを導入することにより、各ドキュメントのレビューの品質を保ちつつ(あるいは今まで以上に品質を高めつつ)、素早くレビュー結果をお返しすることを実現させています。

起業予定の企業様、起業したばかりの企業様、システム開発訴訟のセカンドオピニオンを検討している企業様をはじめとして、特にITに詳しい顧問弁護士をお探しの企業様は、顧問契約締結後、AIを用いた契約書レビューをご体験いただけます。
ご興味のある方は、お問い合わせください。

it-vendor-law.com

NTTデータ編『システム開発を成功させるIT契約の実務』

www.nttdata.com

発行日からしばらく経って発行されていることに気づき、急いで注文して読みました。
読んだ感想としては「法務としてはこれだけでは足りないものの、大いに参考になる非常によい本」というところでしょうか。

そもそもシステム開発契約に関する書籍があまり多くない中、弁護士が著者ではない書籍となります。
少なくとも私が購入した書籍で言えば、日本のシステム開発契約実務に関する書籍で、かつ、弁護士が執筆していない初の書籍です。

「わかりやすさを最優先して極力かみ砕いた表現で契約書雛形も用いながらシステム開発について解説しています。」との説明もなされているとおり、とにかくわかりやすいです。
NTTデータなりのポジショントークも相当に見受けられます。こちらは読んでいておもしろい部分だと思います。

他方、わかりやすさのためか、裁判例システム開発紛争に関する事項の説明に物足りなさを感じることも否めません。
こちらは、そもそもすべてを正確に説明するというコンセプトの書籍ではないとのことですから、やむを得ない点でしょう。

システム開発契約の実務に関する書籍としても、NTTデータがどのようにシステム開発契約について考えているかがわかる書籍としても、非常に読みやすい本ですので、おすすめする次第です。

システム開発紛争に関する発表を行いました(2021.4.14)

2021年4月14日に、所属している東京中小企業家同友会の千代田支部昼例会にて、システム開発紛争に関する発表を行いました。

システム開発紛争の類型、紛争が起きやすい原因、なるべく紛争が生じないようにするためにできること、等の点を約40分間にわたってご説明いたしました。

また後日、発表に用いたスライド等はここで公開するかもしれません。

個人情報保護委員会の新着情報もSlackに投げる

it-lawyer.hatenablog.com

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経産省ニュースリリースと同じように、個人情報保護委員会の新着情報も、個人情報保護法に関する業務を扱っている私にとっては常に追っていなければならないものです。

robots.txtは次のとおり。新着情報をアップしているURLは"https://www.ppc.go.jp/information/"なので、今回の目的を達成しようとするにあたり、robots.txtの記載は障害とはなりません。
また、利用規約においても特にスクレイピングが禁止されているということはありません。

User-agent: *
Disallow: /common/*
Disallow: /hardcore/*
Disallow: /hc_config/
Disallow: /image/
Disallow: /webadmin/*

User-agent: ndl-japan
Disallow: /hardcore/
Disallow: /hc_config/
Disallow: /webadmin/

ところで、PPCのサイトをスクレイピングしようとすると、次のようにDH鍵が短いと怒られてしまいます。

dh key too small

そのため、Net::HTTPのciphers設定でDHを除外する必要があります。

require 'faraday'
require 'faraday_middleware'
require 'nokogiri'
require './lib/hoge'

uri = %(https://www.ppc.go.jp/information/)

connect = Faraday.new(uri) do |builder|
  builder.adapter :net_http do |http|
    http.ciphers = %(DEFAULT:!DH)
  end
end

Nokogiri::HTML(connect.get.body).xpath('//ul[@class="news-list"]//a').each_with_index do |node, i|
  post_feed_to_slack(
    PPC,
    %(https://www.ppc.go.jp#{node[:href]}),
    node.text,
    %(個人情報保護委員会新着情報)
  )

  break if i == 19
end

delete_unnecessary_data(PPC, 40)